【高松アーティスト・イン・レジデンス2016 活動報告】 黒田大祐「西を向いている 東にかたむいている」
更新日:2024年7月29日
高松アーティスト・イン・レジデンス2016にて、アーティストの
滞在日程・内容
滞在期間:2016年11月1日~2017年1月30日のうち54日間
活動内容:高松市内の商店街や屋島などで取材し、作品を制作
地域交流事業:高松市美術館にてワークショップを開催(1月9日、1月14日)
成果発表:2会場で展覧会を開催(1月20日~1月29日)
ワークショップ「といきのまち」
日時:2017年1月9日(月曜日)・14日(土曜日)両日とも13:00~17:00
場所:高松市美術館
講師:黒田 大祐
参加費:無料
定員:各日先着30名(要予約)
対象:どなたでも 小さなお子様は要保護者同伴
内容:版画の技法の一つであるシルクスクリーン版の制作と、これを用い「息」の絵画の制作を行うものです。普通シルクスクリーン版での印刷にはインクが使われますが、今回のワークショップでは「息」をインクの代わりにして窓ガラスに絵を描きます。参加者それぞれの未来の街のイメージを制作し、これを集めた吐息でできた街を作り出します。
展覧会「西をむいている 東にかたむいている」
黒田大祐は、場のリサーチをベースに扇風機(風)を用いた巨大なインスタレーションや映像作品を制作する広島在住の美術家です。広島を拠点に長崎の対馬や札幌まで活動は全国にわたるもので、近年では瀬戸内国際芸術祭2016にも参加しています。
本展覧会は、黒田のおよそ50日間の高松アーティスト・イン・レジデンス2016の成果発表として、高松市中央卸売市場の空き倉庫を会場に、高松市内で制作された新作の映像作品と扇風機のインスタレーションを中心に彼の活動を広く紹介します。
タイトル「西をむいている東にかたむいている」は、高松市に吹く風の風向と、これによる街の影響と変化を示した黒田の言葉です。黒田はある日、高松市内を自転車で走行中に、いつも西から風による影響と変化が街に思いがけない形で表れているのではないかと考えました。黒田のレジデンス活動は、この「気づき」を起点に進められました。1つの気づきが認識を一変させることは珍しい事ではありません。黒田の視点は、普段気にもとめないような目に見えない些細な現象が、私たちの生活に物理的に作用しているということを教えてくれます。
また、作品には商店街をはじめとする高松市内の様々な場所が登場します。さらに高松市美術館で開催されたワークショップで制作された作品も展示されます。※
●会場1 高松市中央卸売市場 加工水産物棟南側
日時:2017年1月20日(金曜日)~29日(日曜日)11:00~17:00
1月28日(土曜日)のみ特別解放のため8:00~17:00
入場料:無料
展示内容:インスタレーション作品及び映像作品
●会場2 市民交流プラザIKODE瓦町 アートステーション ギャラリー
日時:2017年1月20(金曜日)~29日(日曜日)10:00~21:00
入場料:無料
展示内容:映像作品
※ワークショップ当日の気温が高く、作品制作が困難であったため、展覧会会場ではワークショップの様子を収めた映像が上映された。
《西風、はんぶん憂鬱》展示風景
《西風、はんぶん憂鬱》展示風景
《YASHIMA 1》展示風景
《YASHIMA 2》展示風景
《影》展示風景
《YASHIMA 1》
活動報告
リサーチについて
作品制作に向けて高松市のリサーチを行った。当初、具体的な目標は無かったが、高松市の歴史を手掛かりに市内のフィールドワークを行い、この過程でストーリーやオブジェを見いだし、大きな物語を組み立てていくという方針のもと活動した。
11月1日に高松入りし、市役所の皆さんと顔合わせと簡単な打ち合わせを行った。この中で、瀬戸内国際芸術祭で自身が使用していた材料の一時的な保管場所について(高松でも使用するために)相談したところ、高松中央卸売市場の空き倉庫を紹介していただいた。この高松中央卸売市場の空き倉庫が最終的に成果発表展の会場となった訳だが、最初に訪れた段階で大きさや環境的に「これ以上の会場は他に無いだろう」という直感があった。
高松について考えるのであれば、高松だけではなく、他の地域との繋がりの中で高松を見つめた方が上手くいくのではないかという思いがあって、市場という「境界」的な場に惹かれたのは自然な展開だった。しかし、リサーチを開始した直後だったので、それはあくまで1つの可能性・要素として捉えることに留めた。最終的に高松中央卸売市場の空き倉庫を展示会場にするという判断に至るまでは、長い紆余曲折があったが、それは必要な遠回りだった。展示した作品も、作品とは無関係とも思えるフィールドワークやリサーチのプロセスが多く介在している。この遠回りなくしては作品が豊かなものにならないことは経験的に分かっており、最初の打ち合わせで、商店街の展開、市場の可能性、美術館でのワークショップという最終的な成果発表に繋がる道筋がみえてはいたが、それはそれとして、あえて遠回りして出来るだけ多くの物事を拾うことを心がけた。
実際のリサーチは、図書館や資料館などのアーカイブにあたる作業と、高松市内の名所史跡、気になる場所を自転車でひたすら巡り、要素を集める事から始めた。はじめは、高松市中心部に絞りリサーチを進めていたが、中心部は空襲で焼けていることなどから、高松らしい古いものは少なく、日本のどこにでもあるような戦後から現代に至るストーリーにしか出会えなかった。おそらくこれは、あまりにも漠然とした私のリサーチの甘さによるもので、本当は様々な面白いエピソードが中心部にもあるはずなのだが、私はそれに出会うことが出来なかった。そういう訳で、悶々と漠然としたリサーチが続いた。あるとき市内中心部を離れて屋島付近の宿に宿泊することになり、ここで作品制作の要となる展開があった。
リサーチは全てレンタサイクルを使って進めていたのだが、高松市中心部から少し離れた屋島に宿をとったことで、その頃にはもう活動拠点に定めていた市場まで、いつもより長い距離を自転車で通うことになった。ところが、屋島から市場に向かう時だけ、なぜか向かい風が吹いておりやたらに疲れる。不思議に思って、この話を市場の方に話すと「高松市内は主に西から風が吹いている」と教えてくれた。これが転換点となった。それまでの自身の制作(飛行機をモチーフとした映像作品)との関連性もあり、ここで、高松に吹く西からの風に焦点をあて、リサーチをやり直すことにした。資料を見直し、市内を観察し直した。そうした中で戦時中に屋島付近にあった飛行場の滑走路を知ることになった。こうして作品の方向性が大体定まった。
さらに「風向と街」そして「滑走路」という軸からリサーチを深める。すると市内中心部でも、戦中のエピソードは多く、最初はそんな風にするつもりは無かったのだが、リサーチを進める程に、戦争に関する展開に導かれるように傾いていく。制作の方向性が、レジデンスや事業の性質上、相応しいかどうかずいぶん悩んだが、百十四銀行高松支店のダズル迷彩(キュビストが発明した迷彩の様式で、太平洋戦争末期、日本のあちこちでコントラストの強い幾何学模様を建物などに施したもの)が近年の改修工事に伴い出現したという記事に出会い、導かれるままに進むことに決めた。
あえて焦点を定めず風に任せて進めていく中で、「風向と街」そして「滑走路」「戦争」という具合に物語が現れてきた訳だが、これが現在の高松にまっすぐ繋がっているという妙な確信があった。これを裏付けるためにも周辺部の戦争遺構等のリサーチも進めた。自身が拠点にしている広島とのリンクも見え、素材が十分に集まったところで実制作に移行した。毎日休みなく動いた。寒くない冬だったが、それでも12月になっていた。
地域との交流
滞在とリサーチと制作にあたり、高松市中央卸売市場の関係者の皆様、兵庫町商店街の皆様、プリーザーズスクエアの皆様に特にお世話になった。
市場の皆様は、廃棄パレットの使用や加工水産物棟の展覧会会場としての活用など様々な面でご協力いただいた。完全によそ者の芸術家を快く受け入れてくださり、またリサーチの面でも大変多くのヒントをいただいた。
商店街の皆様には、作品の撮影場所として店舗のショーウィンドウや窓ガラスを使用させていただいた。どの店舗の方も営業中にも関わらず大変協力的で撮影はスムーズに進んだ。ブリーザーズスクエアの皆様にはリサーチの初期から情報提供や関係各所への顔つなぎ等、 様々な面でご協力いただいた。リサーチや制作のきっかけを与えていただいて大変感謝している。
個人名を挙げることは避けるが、今回の活動全般にわたり多くの方のご協力をいただいた。どの方も嫌な顔をせずご協力くださり、 また交流の中で様々な示唆をいただいた。 完成した作品からはそうした協力者や交流は見えにくいかもしれないが、およそ50日間の活動は多くの皆様の協力と交流の50日であり、これ無しには、作品は出来なかったと思っている。
まとめ
アーティスト・イン・レジデンスであるが滞在場所がないということで、 苦労はあったが、 なるべく滞在するように心がけた。先にも述べたが多くの皆様との交流と協力を得て作品を制作することができた。アーティスト・イン・レジデンスに挑むスタンスは色々あると思うが、なるべく私の場合は流れに身を任せるようにした。幸い天気にも恵まれ、行く先々で出会いあり、導かれるように作品が出来上がっていった。
滞在場所が無いということに対して、市の方も問題意識を持たれているようではあったが、場所が無いということが、かえって他の場所をひらく契機になりえると思うし、体験した者としてはスリリングで面白い体験だった。私の思いとしては、アーティスト・イン・レジデンスらしくなっていくことを目指すよりは、 高松なりのアーティスト・イン・レジデンスの在り方を模索していく方が面白いし可能性があるのではないかと感じた。
人がいれば何かが起こるというのは本当で、先に成果を定めて事を起こすよりは、まずアーティスト・イン・レジデンスの基本 「滞在」を重視するほうが、見えない大きな成果を生み出すのではないかとも思った。その意味では、市の方とも多く話したが、やはり今後は成果発表よりも滞在重視の方向性でいくほうがより豊かな結果を生むと思う。
(作家による活動報告書より一部抜粋)
メディア掲載情報
四国新聞「空飛べる?すのこ飛行機 広島在住の美術家 高松で作品展」2017年1月22日掲載
毎日新聞「屋島に着目、芸術作品 黒田さん、高松で制作し展示」2017年1月27日掲載
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