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令和2年9月

更新日:2020年7月15日

教育長ひと言

教育長が、教育に関する想いを「この月に想う」と題して綴ったコラムです。

「九月に想う」  人間が本能として有する心の痛みへの同調


 私は、教師生活の中で一度だけ、小学校1、2年生を担任したことがある。その子らが誕生してから、歩き出し、言葉をしゃべり、一人で小学校まで通えるほどに成長してきた6年間に、自分は、どの程度、成長したのだろうと考える2年間だった。そして、その子らとの2年間は、子どもの素晴らしさや、成長の過程で見せる人間の素の姿に感動する日々だった。
 昭和の終わり頃であるから、もう30年以上前のことだが、当時の写真を眺めていると、すべての子どもとの愛しい景色が思い出されてくる。
 K男は、物は壊すし、授業中はうろうろするし、逃げ足は速いし、お山の大将のような存在だったが、私にとっては大切なことを教えてくれた一人だった。
 そのK男が、唯一苦手だったのが、その頃は学校で行っていた注射である。まだ打ってもいないのに始める前から泣いて待っていた。針を刺されている時は一段と大きな声で、終わってからも周囲に構わず泣いた。暴れん坊のK男も、さすがに面目なかった。
 ある時も、1時間ぐらいして、やっと嗚咽が聞こえなくなるほど、しっかりと泣いた。次の授業は、K男の大好きな体育だった。少し、複雑なリレーをした。玉入れの玉をバトン代わりに、障害物を回り、先にある机に玉を置いて帰ってきて、次の者はそれを取ってくるリレーだった。負けず嫌いのK男は、チームに喝を入れ、勝気満々だった。思い通りに、K男のチームは先頭を走っていた。ところが、同じチームのA夫が、行き方を間違えてしまった。泣きべそをかきながらやり直したため、一気に最下位になった。アンカーのK男は、怒りを爆発させ、A夫に罵声を浴びせながら、懸命に走ったが、結果は変わらなかった。
 それからの光景に私は目を疑った。みんなから少し離れて、責任を一人で背負ったように涙ぐむA夫のもとに、ゴールしたK男がそのまま駆けていったのである。K男の今までを知る私は、失敗したA夫に危害を加えると思ったが、制止するには間に合わない距離だった。走った勢いのまま、A夫の所に駆け寄ったK男は、右手を上げた…。次の瞬間、駆け寄ろうとした私の目に入ったのは、何と、上げた右手でA夫の頭を撫でるK男の姿だった。顔をうつむけ、肩を上下に泣くA夫を、横からのぞき込むように頭を優しく撫でるのは紛れもなくK男だった。私は、ほっとしながらも、予期しないK男の行動に戸惑いつつ、二人の肩を抱き、みんなのもとへ連れて行った。
 K男は、自ら意識はしていないだろうが、直前に注射が痛くて、辛くて泣いた自分と、失敗して泣くA夫の姿が、心の奥で結び付いたのかもしれない。リレーで負けた悔しさや、A夫を責める気持ちより、涙ぐむA夫の姿に本能的に同調でき、泣くことの辛さが共有できたのかもしれない。そういえば、鬼のような形相をしてA夫に駆け寄ったK男が、泣きじゃくるA夫の前で立ち止まった時、深呼吸のように大きく息をし、表情を一変させた瞬間があった。その時こそが、辛さへの同調があった瞬間だったのかもしれない。
 この経験以来、辛さや悲しさなどの、心の痛みへの同調は、本能であるからゆえに、もっと子どもたちに共有させなければならない。そして、それが、優しい心へとつながっていくのだと思い、子どもの前に立ってきた。
 しかし、その後も、K男を追っかける日は続いた。
  
  

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