教育長ひと言
教育長が、教育に関する想いを「この月に想う」と題して綴ったコラムです。
「六月に想う」 日本語を書こう
雨の季節になりました。雨の多い日本では、昔から生活の中で、降る雨の細かい違いを敏感に感じ表現してきたのでしょう。日本語には、雨に関連する言葉が百以上もあると聞いたことがあります。
「高松市夜間教室」の授業では、国語担当の山下先生が、毎回、その季節にぴったりの美しい日本語や俳句・短歌を、筆で書いた手作り教材をもとに紹介してくださいます。昨年の授業の折、「遣らずの雨」(やらずのあめ)という言葉を教えていただきました。「帰るのをためらわせる雨」という意味だと初めて知り、その後、興味を引かれた私は、雨に関する美しい日本語を調べてみました。
私のお気に入りは翠雨(すいう)という言葉で、青葉に降り注ぐ雨のことだそうで、新緑の季節の雨の日の美しい情景が目に浮かぶようです。普段何気なく使っている日本語ですが、昔から自然とともに生きてきた先人は、様々な表現を生み出してきたのでしょう。
最近は、仕事でも日常の連絡でも、パソコンやスマートフォンを利用し、短い言葉で用を済ませたり、表現したりすることが多い毎日ですが、数年前に、そのような自分の生活を見直す出来事がありました。
小春日和のある日、実家で、長年そのままにしていた母の遺品の片づけをしていた時のことです。机の引き出しの中から、何十年にもわたって書き綴られた母の日記が見つかりました。
どのページも流れるような文字で記されており、今更ながら、母が毎日を丁寧に生きていたことが伝わってきました。病床に就いていた間も、それは続いており、しかし文字はどことなく弱々しく、眺めているうちに思わず涙がこみ上げてきました。その時、改めて、日々の出来事を記すことがどんなに貴重であるか、また、美しく丁寧な文字を手で書く時間を確保することの大切さに気づかされました。
社会のデジタルトランスフォーメーションが進む中、これまでに比べ、手書きを行う機会が減ってきています。しかし、ぬくもりを感じさせてくれる手書き文字に触れるのは重要だと思います。なぜなら、文字には書く人によって異なる味わいがあるからです。
(市内の小学校の廊下の風景)
小中学校でも、タブレット端末を活用した授業が増えている一方で、国語科の書写の授業では、鉛筆や筆で丁寧に美しい文字を書く練習をしています。最近では教科書に掲載されているQRコードを端末で読み取ると、左利きの子ども用の画像や、筆の運び方が動画で見られるよう工夫されています。それだけでなく、小学校の書写の教科書を開いてみますと、文字を書く時の姿勢や鉛筆・筆の持ち方、用具の準備、片付けの仕方も説明されており、子どもたちは担当の先生の指導のもと、丁寧に片づけを行います。
小学生を見習って、デジタルデトックスの意味でも、丁寧に文字を書く時間を確保するのもいいかもしれません。また、家族間の連絡も、デジタルで送ってしまえば便利ですが、時には台所のテーブルの上に、家族からの手書きのメッセージがあるのも味わい深いかもしれません。忙しいと言われる現代人、大人も子どもも、時折美しい日本語に触れ、丁寧に文字を書く機会を持つと、心にゆとりが生まれ、想像力が豊かになるのではないでしょうか。
ちなみに、私が一番美しいと感じる日本語は「ありがとう(有り難う)」です。家族の間だからこそ、心がけて使いたい言葉です。実は、子どもたちは大人からかけられる「ありがとう」の言葉が大好きなのです。
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