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令和元年9月

更新日:2018年3月1日

教育長ひと言

教育長が、教育に関する想いを「この月に想う」と題して綴ったコラムです。

「九月に想う」 一輪の花

 平成25年の初夏に、小豆島町の岬の分教場保存会が、「先生からの手紙」~「二十四の瞳」大石先生から学ぶ心の教育~として、「教師として子どもたちや親に伝えたいこと」をテーマにした手紙形式のエッセーを募集しました。私は、先月に書きましたように、小豆島の学校に、それも、「二十四の瞳」の舞台であった岬の分教場の本校に勤務したこともあり、この募集を知った時に、ぜひ応募しなければという使命感のようなものを抱きました。そして、二人の少年から学んだことを、「一輪の花」というタイトルを付けた手紙にして応募しました。
 9月、今だからこそ、このエッセーをみなさんに読んでほしいと願います。
 著作権を有する一般財団法人岬の分教場保存会の許可のもと、掲載します。

「一輪の花」
 猛暑の夏が続いていますが、お元気ですか。
 あなたが、教員を目指し、香川の採用選考試験を受験するということを聞いて驚きました。政治家になりたいと豪語していたあなたでしたし、それにふさわしい大学にも進学したことを聞いていましたから、まさかと思いました。でも、嬉しいです。
 私は、今年度末で定年退職です。あなたと同じ時代に教壇に立つことは叶いませんが、私と同じ道を志し、親にもなるだろうあなたに、伝えたいことがあります。二人の少年から学んだことです。
 私がかつて担任した彼は、個性的であり、何にでも優れた才能を発揮し、リーダーとして活躍できる力があるのにもかかわらず、その場の雰囲気に流され、悪いことにもすぐに同調してしまうことが多くありました。彼に、リーダーとしての期待や、自分の行いで見直して欲しい点を話すと、その時は分かったような返事をしても、残念ながら行動に結びつくことができないでいました。
 ある日、私は彼に、一つのノルマを課しました。それは、職員室の私の机の上の小さな一輪差しに、毎朝、花を飾るということでした。実は、大した教育的な理由はなく、毎朝、彼と真っ先に顔を合わせ、「おはよう、ありがとう」と言いたかっただけでした。
 明くる朝から、彼の職員室への訪問が始まりました。一輪の花は、道端の花でも何でもいいと伝えておきました。しばらくすると、花を探すという自分以外に心を向ける意識が、少しずつ彼自身の気持ちを前向きにしているように感じました。そして、毎朝、花を飾りに職員室に行くという日課が、彼の甘えた心を律していきました。
 職員室では、私からの「ありがとう」だけでなく、必ず他のだれかに声を掛けられます。それも、その言葉のすべてが、彼への「ほめ言葉」でした。
ある日、私は、一輪差しの下に四角の小さな座布団のような布が敷かれているのに気が付きました。それは、彼が置いたものでした。尋ねると「花瓶の底に付いた水で、先生の机を汚すといけないから。」と。小さな気付きを、自分の力でどうにかしようという心が芽生えていたのです。「なるほど、ありがとう。」とかけた言葉に、かえってきた満面の笑顔が忘れられません。彼を、そこまでにしたのは、これまでに浴びせられていた叱責や、過度な期待、落胆や、命令の言葉ではなく、よさを認める言葉だったのです。
 彼とは今は、年賀状と暑中見舞いを交わすだけですが、便りを心待ちにしていますよ。
 彼からの暑中見舞いが届く頃、私の住む自治会の夏祭りの夜に、一人の中学生からもほめることの大切さを教えられました。
 彼は、自治会の役員を一緒にしたメンバーの子どもの一人で、当時は小学校四年生でした。どちらかというと寡黙で、声をかけても返事のみで、なかなか会話が成り立たなかった記憶がありました。
 ところが、その夜は、学校の友達や教師のこと、部活動のことなど、たくさん話してくれたのです。内容もさることながら、そうした彼の成長にも感心して、私は「へえ、それはすごいなあ。」「うん。立派だ。」「大したものだ。」などを連発しました。
 一回戦で負けてしまったことを悔しそうに語ってくれた部活動の話では、隣にいた彼のお母さんが「せっかく応援に行ったのに、せがなかったわ。意気地がないんやから。」と口を挟まれたのですが、私は「負けたのは残念だけど、その悔しさが嬉しい。その無念さがあったら、きっと君はこれからの練習にもがんばれて、次は今年以上の成績をあげられるよ。」と励ましました。それをうなずきながら聞いていた彼が、私のために冷えた缶ビールを取って来て、渡してくれながら「おっちゃん。俺、前から思とったんやけど、ほめるん上手いな。学校の先生みたいやな。」と言った時には、私は思わずビールを噴き出しそうになりました。「そうか、君の学校の先生は、ほめるん上手いんやな。」「上手い先生もいるけど…、先生はほめるんが上手なかったらいかん。」「君は、ほめられるのと叱られるのは、どっちが好きや」「そりゃ、人間、ほめられて育つというやないん。ほめられたら、またがんばろうと思う。」私は、心地よい酔いと複雑な気持ちの中で、「ほめるん、上手いな。学校の先生みたいやな。」とおほめをいただいた彼の期待に応えなければならないと思いました。
 今の子どもたちは、自尊感情が低いと言われています。しかし、あなたもきっとすでに分かっているように、そもそも教育(educate)とは、語源的には、子どものいいところを引き出すことです。みんなよさを持っている、十人いれば十人それぞれが違ったよさを持っているという見方を心掛け、しっかりとほめて育て、前向きな自己理解ができる子どもたちになって欲しいと切に願っています。
 一輪の花を毎日毎日、私の机に飾ってくれたあなたなら、きっと心からほめることができる親であり、教師である人間になってくれると信じています。朗報を待っていますよ。
           『本会主催「先生からの手紙」最優秀受賞作品 一般財団法人岬の分教場保存会』

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このページは教育局総務課が担当しています。
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