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木造六字明王立像

更新日:2021年4月15日


木造六字明王立像 画像提供奈良国立博物館(撮影 佐々木香輔)

彫刻

指定区分  県指定有形文化財

指定年月日 令和3年3月30日

所在地   香川県高松市多肥上町886−1 (円成庵)

解説
 円成庵の本尊として安置される一面六臂の六字明王立像である。ほぼ等身大の像で菩薩形の面相に、左右第一手は胸前に構えて印を結び、ほか4本の手に持物(後補)を執る。上半身に条帛、腰下に裙と腰布を着け、両肩に天衣をかけて垂らし、右足を左足背後に跳ね上げ、左足一本で立つ。
 六字明王は、調伏や息災を祈る密教の修法「六字経法(六字法)」の本尊とされた像で、この修法は平安時代末期の院政期、白河・鳥羽院などの周辺でしばしば行なわれていたが、本像は、現在、彫刻として平安時代に遡る国内唯一の六字明王の遺品と認められる。
 平成30年(2018)度の保存修理では後補の彩色が取り除かれ、構造や保存状態が確認された。檜材の寄木造で、頭体幹部は正中線で矧ぐ左右二材から彫出し、内刳りを施した後、三道下にて割首する。両肩先以下、各手の肘及び手首先、左足先をそれぞれ矧ぐが、右足先は本体と共材から彫出する。表面は黒漆の塗布が部分的に認められ、当初は漆下地に彩色を施していたとみられる。また後補部は冠部、髻左方、右耳朶、左右第二手ほか手先の一部、裙裾部、左足枘などで、右足先を背後に跳ね上げるなどの像容にかかわる主要部に当初材を残す良好な保存状態が明らかとなり、儀軌や図像にみる六字明王とは根本印(左右第一手)が異なるものの、六字明王の尊名が確実となったことは評価される。 
 本像の作者については不明であるが、材は目の細かい良質の檜を用い、寄木造の技法も習熟した水準のものである。伝来について延享2年(1745)の地誌「翁媼夜話」には、もと高屋(坂出市)の神谷兵庫忠資に始まる乃生村(坂出市)の氏が代々奉安していた像で、曽孫の孫兵衛元忠の代に多肥の地に移されたことが語られる。
 頬がふくよかで丸顔の面容は穏やかな印象であり、量感を抑えた体躯、薄づくりの衣とその柔らかな衣文表現は、温雅な趣をそなえる平安時代末期の彫刻に通じる作風を示しており、本県における平安彫刻の優品として位置づけられる。ただし造形の細部、面部の側面観などにやや洗練さを欠く部分があり、都の中心的な仏師の制作とするには検討の余地を残すが、院政期における都や当地における造仏事情を考察するに注目される。
 以上をふまえ、国内では類例の少ない六字明王像の極めて貴重な遺品、かつ本県における平安時代の彫刻の優品として高く評価される。

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