令和8年10月
更新日:2026年9月28日
心を耕す時間

10月(神無月)になりました。夜空を見上げると、空気が澄んでいる日には月がくっきりと見え、その神秘さに、しばらく見とれてしまいます。私は自然に囲まれた高松市の郊外(いわゆる田舎の方)に住んでいるので、戸外に出るとたくさんの星を見ることができます。
星を眺めていると、ふと、小学6年生の時の授業で、理科専科の先生(理科を専門に教える先生)が教えてくれたお話を思い出すことがあります。「北極星は約430光年。今、私たちが見ている北極星の光は、430年前に放たれたものなのですよ。・・・先生は、悩みごとがある時やつらい時には、必ず星を眺めるんです。そうすると、自分が何とちっぽけなことに悩んでいるのだろうと思えるのですよ。・・・」当時、温厚でいつも笑顔を絶やさず、わくわくする理科の授業をしてくださっていた先生のお話は、小学生だった私の心に深く刻まれました。
学校生活の中では、ふと、子どもたちの心が動く瞬間や、道徳の時間のように心が耕される時間があります。私は、中学校の教員でしたので、専門教科の指導には少しずつ慣れていきましたが、道徳の時間の指導には自信がなかなか持てなくて、試行錯誤を繰り返す日々を送っていました。まだ道徳が教科化されるよりも、40年以上も前の話です。
ある小規模校に異動した際に、校長先生から校務分掌が道徳主任だということを告げられました。しかも文部科学省の研究指定を受けている学校でした。日々、同僚の先生方と研修や研究を積み重ね、授業研究の際には、本音で意見を出し合い、教科の枠を超えて、よりよい授業づくりのために熱い議論を重ねました。そんなことを繰り返しているうちに、道徳の授業をすることや子どもたちを引き付ける教材を探すことが楽しみになってきました。

それから何年か経って、別の学校で1年生を担任していた時のことです。道徳の授業の導入で、研修会で教えてもらった、相田みつをさんの木を支える「根」に目を向けた作品を取り上げました。花は枝に、枝は幹に、そして幹は地中の根に支えられているという内容です。作品の結びの部分は示さず、子どもたちに問いかけました。
「最後の『根は…』のあとには、どんな言葉が入ると思いますか?」一瞬クラス全体がシーンとしました。きっと思い思いに考えを巡らせていたのでしょう。しばらくすると、いつもクラスのみんなを笑わせてくれるM君が、突然「はい!」と元気よく手を挙げました。そして、地中にある根は外から見ることができない、という趣旨の考えを発表しました。その後、一瞬の間を置いて、クラスのみんなから称賛の声が上がりました。「すごい!そうは思いつかなかったなぁ。」「本当にそうだね。作品が伝えたいことに近いと思う。」
その後も、クラスのみんなからは、次々と意見が出てきました。「周りの人が気づかない、隠れている部分が大切。」「目に見えない部分、そこまでの過程がだいじ。」「葉っぱの部分に気を取られがちになるけど、根がしっかりと張られてるから、幹や枝を伸ばすことができる。」など、この資料だけで1時間議論ができそうでした。

道徳の授業といえば、その頃一緒に勤めていた体育や家庭科の女性の先生からは、よくこんな話を聞きました。当時は、体育も家庭科も男女共修ではなかったので、「担任のクラス全員の子どもたちとの時間は、週にわずか。道徳と学級活動の時間、ここで勝負するために、しっかり授業研究しないと・・・。」この先生の言葉に、自分も頑張らなければと勇気をもらいました。それからは、子どもたちと繋がることができる時間を大切にしたいと思い、朝の会、帰りの会、道徳、学級活動、給食の時間と、わずかな時間でも自分が大切に思っていること、生き方を話そう!と思うようになりました。

心を耕すなんて大それたことはできないにしても、子どもたちが大人になって、いつか、ふとしたタイミングで思い出してくれたらいいな。パーフェクトじゃなくていいから、自分が大切だと感じていることを、しっかり話していこうと思えるようになりました。「先生は今、こんなことに悩んでいます。」「みんな、一緒に考えてくれる?」「実は、子どもの頃、こんな失敗をしました。」でもいいから、子どもたちと共に成長できれば・・・。まさしく相田みつをさんの本「にんげんだもの」の世界です。
道徳は、学習指導要領の改訂で、今は「特別な教科 道徳」と教科化※されていて、教科書もさらに充実してきています。文部科学省は、「考え、議論する道徳」への転換ということで、これまでの心情理解に沿った授業から、多面的、多角的に考える学習が求められています。一方で、道徳教育は道徳の時間を要として、学校の教育活動全般を通じて行うものと定められていて、市内のいくつかの学校では。校長先生による全校道徳やショート道徳、ローテーション道徳(学年団のいろいろな先生が授業をしてくれる)など、様々な取組が行われています。
(※後を絶たないいじめ問題への深刻な懸念や、従来の道徳の時間が形骸化しているという課題を背景に、小学校は2018(平成30)年度、中学校は2019(平成31)年度から全面実施されました。)
秋は、読書にふさわしい時期であると言われますが、同時に、心を耕すのに絶好の季節かもしれません。
※ 全イラスト 佐々木啓祐先生 作
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