更新日:2022年2月15日
教育長が、教育に関する想いを「この月に想う」と題して綴ったコラムです。
<鶴尾小と円座小の卒業を祝う掲示>
「花が見たい。」と、育てている大根に、花芽があるのに気付き、いつの間にか、季節は春となりました。進級、進学を目の前にしている子どもたちには、長く続く先が見えない現況の中、様々にあった現実を受け止め、工夫し、小さな光を見出して、精一杯の日々を過ごしてきたことに、心から感謝しています。そして、これからの歩みが健やかであることを願っています。
大根の花芽を見つけた、うららかな日和のある日、春を探しに出かけるには、昨今の様々な心配事もありますので断念し、録っていた「ダーウィンが来た!」の特集や「地球ドラマチック」などの番組を観ました。色々な姿や形をし、躍動する様々な色彩の動物や植物たちが、私たち人類も住むこの地球という小さな星で、一緒に、そして、それぞれに生きている姿がとても美しく、心が和みました。一方で、世界の絶滅危惧種が約3万種もあると聞いて驚きましたが、その生き物たちも、種をつなごうと、厳しい現実の中、懸命に生きています。極々小さな生き物から大型の動物や植物も含めて、その多様な生き物たちによって私たちの暮らしは維持されています。そのため、生物多様性を保全していくこと、異なるものと共に生きていくことは、その中の一つである人類にとってもとても大切なことであり、何より互いに共存し合う多様性は、とても美しく見えます。
しかし、残念なことに、今、人間社会の中では、その多様性が脅かされています。同じ人間であるのにも関わらず、自分とは異なる考えや姿などを尊重し合い、共に在ろうするのではなく、排除しようとする人と人のトラブルや他の人への容赦ない攻撃、幼い子どもへの虐待、更には国と国との争いなどの出来事に、心が痛みます。さらに、子どもたちがそうしたことを目の当たりにすることで、心が傷ついたり、健やかな心の成長への影響があるのではと、心配します。
そのような出来事に出会うたびに思い出すのが、平成19年夏に広島市平和記念式典で読み上げられた児童代表による「平和の誓い」です。二人の小学生は、身近な所で争いが絶えないことにふれ、「自分の受けた苦しみを他人にぶつけても、何も生まれない。憎しみや悲しみの連鎖を、自分のところで断ち切る強さと優しさが必要です。」と呼びかけたのでした。子どもたちにとっては学校でのいじめ問題など、そして、大人たちにとっては人とのいさかいや世界中で起きている紛争など、何か自分の意に沿わないことがあれば、相手を攻撃し、憎しみ合う事件などに遭遇する度に、二人の小学生が呼びかけた誓いの文の一節を思い出し、15年も経った今でも、地球上の全ての人の心に届いてほしいと願わずにはいられません。
「心愛さん」、「大翔さん」、「雄大さん」、「結愛さん」、親が、名が表すように育ってほしいと願って付けた素敵な名前です。しかし、虐待によって、人生の歩みを止められた子どもがいます。それは、ある一つの虐待事件ではなく、今、私たちの社会で蔓延る、15年前に二人の小学生が訴え、危惧した、憎しみの連鎖を、自ら断ち切れなかった人の心の弱さではないかと感じます。
全ての大人が、成長という過程で一度経験した道を、子どもは初めて歩んでいます。どの道が、子どもにとってふさわしい道か、大人は知っているのですから、子どもの歩みの道標にならなければいけません。人間が本来持っている創造性や柔軟性、思いやりや優しさなどを子どもの中に見つけ、感動できるしなやかな感性や、自分がどのような大変な状況にあろうとも、子どもの言動を見ながら、寛容な心をもった関わりや応対こそが、道標ではないでしょうか。
この地球で全ての生き物たちが互いに思い合いながら、多様に共存でき、全ての子どもが、誰一人取り残されることなく、子どもらしく育つことを心から願います。